研究報告要約
調査研究
29-132
下田 元毅
目的
現在,井戸を見直す動きが全国的に広がっている。
1995年の阪神淡路大地震時には,127万戸が断水,最長断水日数も90日を数える影響が出た。一方,2007年に発生した新潟県中越沖地震では,消雪用として用いられる井戸水が利用され,深刻な水不足に陥らずに済んだ。上記を踏まえ,国土交通省は2009年,地震災害時に水に関する危機管理対策の充実を図ることを念頭に置き,「震災時地下水利用指針」を取りまとめた。しかし,東日本大震災では19都道府県で断水戸数257万戸を数えた。
そこで,本研究は,井戸の調査・研究にもとづき提案・実践(新たな井戸の創出)を行うことを目的とする。人が水に関わるプリミティブな場所・空間としての「井戸」に着目し,その利用と造形の在り方を調査・研究し,それにもとづき,来たるべき東南海沖地震に向けて井戸を起点とした防災拠点から考える「事前復興計画」を見据えた新たな井戸空間を創出することを最終目標としている。
内容
研究計画にもとづき下記の調査・研究・実践を行った。
1.調査:井戸の調査
津波被害が想定される紀伊半島沿岸部,四国南沿岸部,伊豆半島西沿岸部の3地域60集落の井戸調査を行った。井戸及び井戸周りの空間を実測し,空間形態調査を併せて行った。
2.調査・発表:集落展 漁村集落の展覧会 -三重県立熊野古道センター-
井戸の調査にもとづき,津波被害が想定される紀伊半島の12集落を中心にした展覧会を開催した。調査内容を写真や地形模型・図面などで紹介し,今後、来るべき震災・津波に対して漁村の現在を記録し,未来に向けた対策のための思考の糸口となることを目的とした。
3.調査・実践:和歌山県広川町「井戸ワークショップ」と防災拠点の提案
当該地域の既存の井戸の位置・水質・履歴等を把握した上で,被災時における防災拠点の候補地を地域住民と共同で選定し,事前復興計画の策定に向けた知見と手法の手がかりを得ることを目的とする「井戸ワークショップ」を開催した。
方法
本節では,主に3.「井戸ワークショップ」について述べる。WSにおける目的及び着地点は,
①井戸の位置及び属性(個人井戸/共同井戸)を把握すること,
②井戸の分布とヒアリングによる水質を把握し,生活用水を確保できる防災拠点地の選定に向けた手掛かりを得ること,
③今後の事前復興計画への糸口を探ること,である。
参加地域住民にヒアリングを行い,最後に新しい防災拠点の候補地を参加者全員で選定した。候補地については,緊急時の避難目標となり得るような求心的な場所であること,金気(鉄分)の少ないきれいな水が確保できること等を条件としながら幅広い意見を募った。事前に地図を準備し,小字境界線,公共施設,寺社仏閣,土地利用,浸水境界線を示した。また,井戸の分布と位置関係をとおして新たな防災拠点の選定を立体的に把握・共有し,防災拠点候補地を選定しやできるようWS中に地形模型に井戸の位置をピン打ちした。
結論・考察
以上のことから,井戸ワークショップにおける広川町の防災拠点候補地の手がかりとして,2か所の候補地が選定された。WSの成果は,
①既存井戸位置把握による水系及び水質の分布特性,
②既存井戸の利用状況が把握でき,被災時における既存井戸に対する防災的利用の可能性を把握,
③地域性や土地利用の具体的な状況を踏まえた新たな防災拠点候補地の選定である。
上記①~③は,今後の防災拠点における役割や選定を検討していく上で有益な手掛かりとなる。また,井戸の持つ防災的な役割について再認識するとともに,取り組みを介して住民や行政との新たな連携の素地となり,事前復興計画に向けた有効性が確認できた。
また,津波被害が想定される漁村を中心とした井戸調査を行い,井戸に関わる集落空間について展覧会を開催した。井戸の利用の造形や維持管理等は地域の個別解ではあるものの井戸の重要性について展覧会をとおして発表することができた。
英文要約
研究題目
“Well”
Research on regional contexts of its use and modeling and creation of new well spaces
申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名
下田元毅 大阪大学大学院工学研究科 助教
木多道宏 大阪大学大学院工学研究科 教授
本文
Currently, the movement to review wells spread nationwide. This research is aimed at proposing and practicing based on research and research on wells. Focusing on the “well” as a place / space, investigating and studying the usage and shaping method, based on it, thinking from the disaster prevention base starting from the well toward the coming Tonankaikai earthquake “Preliminary recovery plan The final goal is to create a new well space with an eye on”
Based on the research plan, we conducted the following research, research and practice. 1. Well survey 2. Well exhibition 3. Well workshop and well suggestions
In case
Two candidate sites were selected as clues to the disaster prevention site in Hirokawa town in the well workshop. The results of WS are: (1) Distribution characteristics of water system and water quality by grasping the existing well position, (2) Grasp the usage status of existing wells, grasp the possibility of disaster prevention against existing wells at the time of disaster, (3) It is the selection of a new disaster prevention base candidate site based on concrete situation. The above ① to ③ are useful clues to consider roles and selection in the future disaster prevention base. In addition to reaffirming the disaster-prevention role of the well, it became a ground for new cooperation with the residents and the administration through efforts, and it was possible to confirm the effectiveness towards the preliminary recovery plan. In addition, we conducted a well survey focusing on fishing villages where tsunami damage is expected, and held an exhibition on village space related to wells. We could announce the importance of the well through the exhibition though modeling and maintenance of utilization of the well is an individual solution in the area.