研究報告要約
在外研修
30-301
田熊 隆樹
目的
アジアモンスーン地域に共通する建築・住環境について研究・制作に取り組んできた経験から、台湾の宜蘭という典型的な多雨地帯で先鋭的な設計活動をする田中央工作群において、設計実務を中心とした研修および台湾東部の伝統建築の調査を通して、アジアモンスーン地域の建築・住環境の普遍的な計画手法を身につけることを目的とする。
内容
1.田中央工作群における設計業務を基本とした実務研修
プロジェクト開始時の調査、コンペティション、基本設計、詳細設計を担当。クライアントやその他協同エンジニアとの会議や連絡も行う。過去のプロジェクトの参照・考察も並行して行う。研修の大部分の時間をこの実務研修にあてることとなった。
担当したプロジェクトの概要および担当した役割は以下。
礁溪明德班…元軍宿舎を再利用した総合生活公園。実施基本設計、詳細設計(一部)を担当(現在施工中)
宜蘭バスターミナル…バスターミナルの新築。コンペティション時の設計、実施基本設計の一部を担当
宜蘭高校体育館…コンペティションの設計を担当
三星教堂(カトリック教会)…80人規模の小さな教会。実施基本設計を担当
新竹市國際展演中心…800人規模の劇場。コンペティション時の設計を担当
清華大學文物館…歴史的文物の収蔵庫および展示施設。コンペティション時の設計、実施基本設計を担当
清華大學文學館…小説家・王默人の記念館。コンペティション時の設計を担当
礁溪國小停車場…小学校の校庭の地下二層の駐車場と周辺のランドスケープ計画。コンペティション時の設計を担当
2.台湾東部の伝統建築についての研究・調査
台湾東南部の蘭嶼島、最南部の屏東において伝統建築の現在の姿を調査した。
方法
1.田中央工作群における設計業務を基本とした実務研修
実務研修においてはプロジェクト開始時の敷地調査から基礎的なスタディ、模型製作、図面、コンペティションの提出資料の作成、会議や連絡など、事務所内での設計業務をおこなった。研修を行うなかで逐一事務所の過去の作品も実際に訪れて参照した。
2.台湾東部の伝統建築についての研究・調査
台湾原住民族の民家研究のはじめてのものである千々岩助太郎『台湾 高砂族の住家』を参照し、実際に蘭嶼島におけるヤミ族の「地下屋」(海辺の台風の被害を防ぐため地下に建てられた住居)、屏東におけるパイワン族の「石板屋」(石積の壁、石板の壁を持つ山の中の住居)を訪問した。現地で住民、もしくは管理者から話を聞きながら、簡単な実測や記録をおこなった。
結論・考察
1.実務研修では、非常に多くのプロジェクトに設計者として責任をもった立場で関わることができた。以下に考察を記す。
① 田中央工作群が20年来作り続けてきた作品の多くに共通するデザイン言語として「大きな屋根をもち、空気が流れる空間」がある。これはそのまま宜蘭の多雨気候に適しており、ひいてはアジア・モンスーンという多雨地帯に適した建築言語と言える。また実務研修を通して、事務所では「計画範囲を超えた部分の設計の提案」が当たり前にされていることがわかった。研修を進めてゆくなかで、上記2つの一見関係のないものが、実は大いに関係していることを実感した。それは、物理的形態(大屋根、半外部、スカスカの空間)が、プロジェクト同士をつなげる余裕ときっかけをつくっているということである。建築物それ自体が完結しないということは、例えば数年後に予算がついて、広場から異なる場所へつながる雨よけの屋根が設けられるなど、展開を容易にしている。事務所の最も特異な点である「各プロジェクトが結び付けられる」という現象に、アジアモンスーンに適した空間形式が関係していることを理解した。
② 田中央工作群の作品が建築の範囲を超えてランドスケープや土木レベルのものであること、さらに建築作品がランドスケープと一体化したものとして実現する背景に、(1)遊歩道などの小さい公共ランドスケープのプロジェクトを続け、その中でペイブメントや椅子などの小さな発展を積み重ね、それを建築作品の周囲のランドスケープに適応すること、(2)土木コンサルや交通計画など他業種との協働関係をもち、互いに協力し合う機会が多いこと、があることを理解した。気候に適した空間は、建築内のみでなく、それ以上の広範囲の環境に対して提案できる経験と能力、協働関係があってはじめて作ることができることを学んだ。
2.伝統建築がもつ空間が現在にまで連続していることを確かめ、それらを台湾、ひいてはアジア・モンスーン地域における建築設計手法として活かすつもりで台湾東部の民家を調査したが、結果的に最も興味を引いたのは、むしろ伝統住居と現代住居の「断絶」であった。蘭嶼島では、多くの部落が地下屋を捨て、彫り込まれた地下空間は埋められ、「水泥屋」(コンクリート住居)が建てられていた。戦後に国民党とともに持ち込まれたというこのコンクリート住宅は、伝統建築との連続性をほとんど持たず外部から輸入されたものであり、それは台湾の歴史を考えると必然的に予想される建築の変化であった。しかしその中で唯一、「涼亭」という屋根のある高床の東屋は、新しいコンクリート住宅にも付属していることを発見した。そしてそれは田中央工作群の共通言語である「大屋根」と同じであり、アジア・モンスーンに必要な住空間という視点から、現代建築と伝統建築の間に連続性を見出すことは可能であると考えた。
英文要約
研究題目
[アジアモンスーン地域における建築・住環境の計画手法に関する調査・研究]
The research about planninng method of architecture and living environment in Asia Monsoon Region.
申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名
Ryuki Taguma
Fieldoffice Architects
Architect
本文
1.In Field office, I joined many new projects. I designed Park, church, exhibition building, underground parking lot, bus terminal and so on. My conclusions below.
①fieldoffice’s design language “big roof and empty space” makes very suitable space in Asia monsoon region. At the same time, because of this space, it will more easy to use fieldoffice’s method about making addition to project.
②fieldoffice’s landscape like design method is realized from many small landscape project (like promenade). We practice many types of pavements, street furnitures. So when we do architectural project, it’s become easy to make building joint to landscapes. In another, fieldoffice has many relationship with Civil engineering consultants, transportation planning companies. We cooperate each other, and get more huge field of view about planning for living environments.
2.Research about old houses in Lan-yu islands and Ping-dong, I found there is big “Severance” between old and new buildings in Taiwan.It’s because of the history of Taiwan. So traditional building wouldn’t continuous. In Taiwan history, new technology and materials were straightly come from outside.
However, in Lan-yu island, traditional space for resting is continuously used in new concrete houses. It’s very important because it IS Asia monsoon’s space like “big roof and empty space” made by fieldoffice. In conclusion, through the viewpoint of Asia monsoon’s space, it’s possible to recognize the continuity between modern architecture and traditional architecture in Taiwan.