研究報告要約
在外研修
4-301
南 苑佳
目的
建本研究は、「自分の暮らす街に居場所を自覚するということについて」という題目でスタートしました。「気候や歴史的な街の成り立ちから建築の内外がはっきりと分かれている北欧諸国において、都市の外観を形成するランドスケープの一部としてのインテリア、生活空間の美学を研究、理解し、日本の都市空間における、身体的な活動が風景となる新しい建築のあり方を提案する。」というテーマでスウェーデンはストックホルムのKonstfack University of Arts, Crafts and Design |スウェーデン国立美術大学の、SpatialDesign学科にて研修を行いました。在学中の様々な活動を通して「気候や歴史的な街の成り立ちから建築の内外がはっきりと分かれている北欧諸国において、都市の外観を形成するランドスケープの一部としてのインテリア、生活空間の美学を研究」する中で、徐々にテーマの焦点が定まっていきました。今回の在外研修では特に、自分の育った文化とは違うところに住むという自身の経験から、「自分の暮らす街に居場所を自覚する」にはまずは暮らしの中で直面する「孤独」について考えなければならないことを実感し、都市で暮らしていくことの孤独についてをテーマにすることにしました。
本研究の最終的な成果物としては、当初の「日本の都市空間における、身体的な活動が風景となる新しい建築のあり方を提案する。」という計画の一部を変更し、ストックホルムにある敷地を用いて建築の提案を行いました。提案の敷地はストックホルムですが、都市における新しい共同生活のための建築空間の提案として、さまざまな都市における集合住宅のあり方として広く応用できる可能性のあるものを目指して設計を行いました。
内容
本助成を受けて制作した今回のプロジェクトのタイトルは、[Being Alone Together : Spatial
investigations on ways to live with loneliness(孤独と共に暮らす方法に関する空間的調査)]です。このプロジェクトは、個人的な観察を通じて、孤独を単に取り除くのではなく、孤独を受け入れ、孤独とともに生きようとする生き方を探求することを目指しています。私たちが住む物理的空間が私たちの社会的なつながりや人間関係を大きく形作ることを考慮し、自分自身を超えた他者とのつながりを育む上での空間デザインの重要性を研究します。
具体的には、ストックホルムの元食肉処理産業工業地帯を敷地に単身世帯を対象とした集合住宅を提案しました。
方法
「リサーチ」
単身世帯を対象とした集合住宅設計のためのリサーチとしてcollective
houseのケーススタディの調査、運営方法等の聞き取り、住民を対象とするインタビュー、実際の住空間を訪問等を行いました。特に、都市計画家で建築家のスヴェン・マルケリウスによって設計された、スウェーデン初の集合住宅として知られるMarkeliushusetの住民へのインタヴューや、住民が自分のアパートを持ちながら、1階には広いキッチンとダイニング、工芸工房、サウナなど、さまざまな機能を共有するKollektivhusetTrePortarへの訪問を通して、スウェーデンでは様々な方法で暮らしの一部を共有する試みがなされてきたことを学びました。
「敷地」
プロジェクトの場所としては、ストックホルムのかつて屠畜産業が集中していたSlakthusområdetにある既存の建物を選びました。1912 年 1 月に開設されたこの工業地帯の現在の敷地面積は約 300,000平方メートルで、主に食品会社を中心とした企業が入っています。
このエリアは現在、ストックホルム市の再開発プロジェクトの一部となっており、
工業地域から、数千戸の住宅、オフィス、学校、商業エリアが新しい緑豊かな公園と共存する都市地区へと開発される予定です。このほかにもストックホルムの他の工業地域も住宅街に変わりつつあり、近い将来、無人の工業地帯だった場所に多くの新たな住民コミュニティが生まれます。誰もが等しくその地域にとって新しくやってきた住民で、伝統的なルールが確立されていないということが、この地域をプロジェクトの場所として選んだ理由の 1 つです。
このような状況の中でコミュニティとつながりの感覚をどのようにデザインするかが、孤独について考える鍵となりました。
「設計提案」
提案の設計は模型を主なメディアとしてスタディを進めていきました。
結論・考察
このプロジェクトでは、孤独と私たちの生活について考えました。新しい土地で暮らす経験から始まり、プロジェクトを進めていく中で、孤独は必ずしもネガティブなものではなく、自分自身が生きていくために必要なものでもあることを発見しました。模型を使った設計プロセスで提案したこの集合住宅は、壁で完全に区切られたカプセルのような従来の一人一部屋の住まい方とは異なり、プライベートな空間と共有の空間が不規則に繋がっています。その空間の中で、居住者同士がコミュニケーションを図り、自分だけの心地よい居場所を獲得していきます。日常生活は徐々にルーティン化し、人間関係が構築され、各居住者の使用空間がある程度決まってくることで居住者の生活空間は重なり合いながらも、互いに異なる形を作り出します。人間関係や入居者自身のその時々の気持ちを反映しながら、生活空間は常に流動的に形成される。時には自分の空間に閉じこもり、時には気軽に誰かと交流できる安心できる居場所があれば、自分の境界線を自分でコントロールでき、新しい環境に飛び込む勇気が湧いてきて、自分の世界が広がるかもしれない。自分の住む街に居場所を見つけるための第一歩として人生の様々な局面を引き受け、新しい世界に挑戦する勇気を与えてくれる建築の提案です。
英文要約
研究題目
Being Alone Together
: Spatial investigations on ways to live with lonelines
申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名
Sonoka Minami
Degree of Master of Fine Arts in Design – Spatial Design
Konstfack – University of Arts, Crafts and Design
本文
In modern society, loneliness is often talked about as an undesirable thing and something
that should be eliminated, which makes it obvious that many people are suffering from it.
Considering that the physical spaces we inhabit significantly shape our social
interactions and relationships, this project aims to highlight the importance of spatial
design in fostering connections with others beyond oneself. Specifically, the gaze is
directed toward co-living.
Slakthusområdet is a slaughter industrial area that is going to be developed from an
industrial area into an urban district with lots of housing. On the site, I have
examined how spatial design can create lifestyle on our own initiative and feel a sense of
belonging in a new environment. Through personal observations, this project explores a way
of life that accepts loneliness and seeks to live with it. In this project, I call this
way of living “Being alone together”.
By using physical models as the primary medium, I proposed a housing complex that offers
diverse forms of living spaces to accommodate all residents.
This new approach to communal living holds the potential to unlock new possibilities of
life, particularly for urban dwellers. Furthermore, it offers a fresh and unique solution
in response to the housing challenges faced in Stockholm.