研究報告要約
調査研究
29-125
安田 幸一
目的
1.はじめに
1-1.イルカの飼育繁殖施設の必要性
イルカは水族館において最も人気がある種の一つであり、イルカショーは水族館の目玉の一つである。日本はこれまで和歌山県太地町や静岡県伊東市で行われている追い込み漁によって自然界からイルカを捕獲し、水族館で飼育するというのがほとんどだった。しかし、近年、動物愛護の観点から野生のイルカの捕獲がより強く制限されており、国内外の動物愛護団体から非難を受けている。イルカの捕獲方法が残酷であるということが1970年頃から叫ばれ始め、2004年にはWAZA(世界動物園水族館協会)年次会合において、追い込み漁で捕獲されたイルカを水族館で入手することについて非難決議が採択され、2015年4月にはWAZAはJAZA(日本動物園水族館協会)に対して、加盟水族館が追い込み漁によって捕獲されたイルカの購入を中止しない場合、除名すると通告した。それを受け、2015年5月にJAZAの加盟水族館が追い込み漁によって捕獲したイルカを購入しないことを決定した。そのため、今後イルカの生体展示を継続して行くためには館内施設で繁殖する必要がある。一部の水族館では繁殖に取り組み、繁殖を前提とした飼育繁殖施設(種の保存水槽)で飼育しているものの、日本の多くの水族館は繁殖を考慮して設計された施設ではないため、繁殖を成功させるには改善が求められ、また、新たなイルカの繁殖を前提とした水族館を作る必要性も出てくる可能性がある。
JAZAはバンドウイルカを含む4種類のイルカを種別調整対象種に指定し、館内施設で繁殖に取り組んでいる。また、2008年に発行された『海洋と生物174』という書籍の論考『バンドウイルカの繁殖の取り組み』で述べられているように、わが国の水族館での小型鯨類のうち、56%はバンドウイルカであることから、本研究では、日本国内の水族館で最も飼育繁殖が行われているバンドウイルカに着目する。(図1)
1-2.イルカの飼育環境に関する法律・規則等
日本国内の水族館のイルカは動物の愛護及び管理に関する法律、展示動物の飼養及び保管に関する基準によって飼育動物として保護されているが、各飼育施設が自主的に維持管理を行うという位置付けであるため、その管理状況の報告は必要なく、具体的な飼育環境の基準は定められていない。1995年に発行された書籍『新 飼育ハンドブック水族館編 繁殖 餌料 病気』において、「現在のところ特に定められた空間基準はなく、飼育有経験者の判断に任せられているというのが現状である。」と述べられており、飼育環境の基準は明確化されていないということがわかる。
一方、アメリカはもっとも飼育繁殖技術が進んでいる国の一つであると言われており、動物福祉規則(Animal Welfare Regulations)(以下、AWR)によりイルカをはじめとした海洋哺乳類や犬、猫等の飼育動物の取り扱いに関して定められている。AWRは2002年に米国農務省により動物福祉法(Animal Welfare Act)に基づいて制定された規則で、飼育動物の取り扱いに関して定めており、①動物、周辺温度等の用語の定義、②飼育員の資格、認可等の規則、③それぞれの飼育動物の飼育環境に関する基準、④動物福祉法に基づいた手続に関する規則のパートで構成され、飼育環境だけでなく、輸送の際の環境、飼育員の資格、記録保持等についても具体的な要求があり、国が飼育施設の査察をおこなうと定められている(表1)。
表1 Animal Welafare Regulations の概要
1-3.研究の手法・目的
本研究では、まずAWRのバンドウイルカの飼育施設の基準を定めた項目を抽出し、整理する(表2)。それぞれの項目を細分化し、それらの項目について、バンドウイルカ(図1)の飼育繁殖を行っている獣医及び飼育員等へのインタビュー調査からイルカの飼育繁殖施設の現状を把握した上で、その改善方針を考察することを目的とする。
1-4.既往研究
既往の研究では、成熟したイルカのホルモン分泌量の年次変化についての勝俣らの繁殖生理に関する研究や単一の水族館におけるイルカの飼育環境について述べた北村の研究があるが、複数の水族館の飼育繁殖施設の現状を横断的に調査し、比較・分析している例は無い。
内容
2.調査対象と調査概要
日本でイルカを飼育している施設は43館のみで、その中で繁殖経験がある施設は12館である。今回対象とした5事例は、イルカの飼育繁殖に関して専門的な知識がある獣医師や飼育員にインタビューが可能だった事例である。また、アメリカ(ハワイ州)に人工的に造成した砂浜・湾を仕切った場所で飼育繁殖を行なっている施設があり、そこで多くの繁殖成功例があるため、参考事例として調査を行なった。インタビュー調査の概要を示す(表3)。
インタビューではAWRのバンドウイルカの飼育施設に関する項目を細分化した項目に関して、それぞれの飼育繁殖施設の現状はどのようになっているか、現状の施設に関してどのような問題があるのかという観点から調査を行なった。なお、調査対象施設はバンドウイルカの屋内の飼育繁殖施設を保有していなかったため、インタビュー項目から除外し、そのほかの項目を調査項目とした。
表3 調査対象施設とインタビュー調査の概要
3.バンドウイルカの飼育繁殖施設の現状
3-1.飼育繁殖施設の種類
調査対象飼育繁殖施設を水槽の分割の仕方で集合型と分割型に分類した(表5)。
集合型はコンクリートで陸上に複数の水槽の集合を作り、そこに海から取水し、水槽の水として使用する型である。分割型では、人工湾を網で仕切ることで複数の水槽を作り、ポンプで水を外海から取水し、外海と接続しているところから自然排水することで水を循環させる人工湾分割タイプと、人工湾に複数の生簀を設け、その中で飼育し、潮流で自然給排水する人工湾生簀タイプが見られた。コスト面に関しては、プール集合タイプは建設コスト、ランニングコスト共に高く、人工湾分割タイプは建設コストが大きいものの、ランニングコストは低く、人工湾生簀タイプは建設コスト、ランニングコスト共に低かった。
3-2.現状とそれに対する意見
インタビュー調査によって得た各飼育繁殖施設の各項目の現状とそれぞれに関する意見をまとめ、飼育繁殖施設の型ごとに比較する。飼育繁殖施設の現状と現状に対する意見を下の表にまとめた。
3-3.屋外施設に関する意見
屋外施設に関する項目の現状と現状に対する意見を見ていく(表8)。J1、J2、J3、J4は自然海水を取り入れており、水温調節をして約20度の水温で飼育しているところが多かったが、J4は掛け流し方式であり、外水温のまま取り入れているため、夏は温度が上がりすぎることがあるという意見が得られた。Ai、J5は自然海水をそのまま取り入れており、A1はパイプでくみ上げていたが、J5は潮流で自然給排水をしており、加温等の制御をしていなかった。
気温はどの飼育繁殖施設も制御をしておらず、「気温が水温より10℃以上低いと、イルカの肺の換気率は約90%と高いため、肺炎になる可能性がある。」という意見が見られた。
バンドウイルカを飼育している水槽でカマイルカ、オキゴンドウイルカ飼育している場合があり、「水温の面でそれらの別種のイルカを飼育することは大きな問題ではない」という意見が得られたが、バンドウイルカをカマイルカ、シャチと同水温で飼育しているJ3から、「アイスランド産のシャチを飼育しており、シャチの適水温はバンドウイルカの適水温はより約10℃低く、シャチの適水温に合わせているため、バンドウイルカにとっては適水温より約10度低い水温で飼育している」という意見が得られた。
シェルターは多くの水族館が有しておらず、J4からは「将来的に、台風の時等に封鎖環境にできるシェルターは必要になる可能性がある」という意見が得られた。
屋根を有している飼育繁殖施設が6館中3館あり、「直射日光が当たりすぎると、水温が上がりすぎたり、目の疾患になる場合があるため、屋根で直射日光を防いだ方が良い」という意見が得られた。
取り上げの方法としては可動床、ランディング、漁網、落水があり、「イルカのストレスが少なく、医療行為が容易で、事故の可能性が低い可動床での取り上げが良いと思う」という意見がみられた。
3-4.水槽に関する意見
水槽に関する項目の現状と現状に対する意見を見ていく(表8)。MHDは集合型が12.5m~18m、分割型が20mを超えており、集合型は分割型よりMHDが短い傾向にあった。「新生児が直線上に泳いでいるときに母獣が授乳を行うため、約18mあることが望ましい」という意見が見られ、集合型の多くはMHDが足りていなかった。
形状は楕円形、円形、長方形の水槽がみられ、「MHDを長く取るためにも、細長い形状が望ましく、事故を防止するために、直角の場所がない方が望ましい」という意見や、長方形の水槽で飼育繁殖をしているJ5から「水槽の四隅に網を張り、角を切っている」という意見がみられた。
表面積に関しては集合型が70~200㎡、分割型が250㎡を超えていた。繁殖水槽での飼育頭数、J1は6頭、J2は2頭、J3は4頭、J4は3頭、A1は3頭、J5は4頭であり、集合型の1頭あたりの表面積は30~40㎡、分割型の1頭あたりの表面積は75㎡を超えていた。ここから、集合型の方が余裕のある広さでの飼育が行われていることがわかる。
深さに関しては3~4mの水槽が多く、6mの水槽での飼育が行われているJ3から「深すぎるとイルカが呼吸に上がるまでの距離が長いため、深さより広さが必要である」という意見が得られた。
また、漁網でイルカの取り上げを行っているJ2から、「深すぎると漁網での取り上げができないため、可動床が必要になる」という意見が得られた。他に深さに関して、「深すぎると医療行為やメンテナンスが難しくなる」という意見がみられた。
水槽は各飼育繁殖施設に4~8個あり、集合型から「繁殖計画を考慮し、ショー、繁殖、メディカルのように、用途に合わせて分けて水槽を作る」という意見が得られ、分割型から「将来オスの頭数が増えてきた時に、オスはメスと分けて飼育する必要があり、個数が足りなくので、水槽の個数を増やして対応する」という意見が得られた。また、A1から「他の園館と連携し、一方ではメスのみ、他方ではオスのみを飼育することで、個数の問題を解決している」という意見が得られた。実際に、A1は同州に同じ管理母体の園館を作り、連携を取りやすくしていた。水槽の配置に関しては「複数の水槽とつなげ、かつ水槽同士の距離を短くすることで、イルカの移動が容易になる」という意見が見られた。
擬岩等の環境要素はJ3、A1で見られ、J3から「擬岩が障害物となり、MHDが短くなり、縦に泳ぐ行動や、擬岩に体をこすりつける自傷行為がみられると考えられる」という意見が得られた。
このように日本とアメリカ、集合型と分割型で水槽の規模、運営形態、飼育環境に対する考え方に関して大きな違いが見られた。
ランディングスペースは日本の飼育繁殖施設に多くみられ、「ランディングスペースは出産時に障害物になるため、柵を立てたり水位を変えたりすることで、安全にしたほうが良い」という意見や、「ランディングスペースは医療行為をする時に重要で、深さは約30cmで、オーバーハングさせ、水槽の周りにオーバーフロウを設けるのが望ましい」という意見がみられ、アメリカではランディングスペースはみられたものの、障害物と捉えておらず、「ランディングスペースはイルカとのコミュニケーションを取るために必要なものである」という意見がみられた。
シャローウォーターは日本にはみられず、人工的な湾で飼育繁殖を行っているA1のみがシャローウォーターを有しており、「シャローウォーターは様々な深さの場所ができるため、多様な触れ合いをするために有効である」という意見が得られた。
擬岩等の環境要素はJ3、A1で見られ、J3から「擬岩が障害物となり、MHDが短くなり、縦に泳ぐ行動や、擬岩に体をこすりつける自傷行為がみられると考えられる」という意見が得られた。
このように日本とアメリカ、集合型と分割型で水槽の規模、運営形態、飼育環境に対する考え方に関して大きな違いが見られた。
3-5. 水質に関する意見
水質に関する項目の現状と現状に対する意見を見ていく(表9)。イルカは肺呼吸であるため、塩分濃度、pHは飼育繁殖に大きな影響を及ぼさないという意見がみられた。
3-6. 分離に関する意見
分離に関する項目の現状と現状に対する意見を見ていく(表10)。バンドウイルカはメスとオスを基本的に分けて飼育する。繁殖計画で、イルカの頭数を増やすとなった時に、メスとオスを同じ水槽で飼育し、妊娠が確定したのちに再びオスとメスを分けて飼育する。妊娠期間は約1年で、子育て期間は約3年である。出産時、出産後にオスとメスを混ぜて飼育していると新生児とのトラブルが起こることが多いため、妊娠確定以降、メスのみで飼育することが多い。子育ては基本的にメスのみで行い、新生児は長くて約3歳まで乳離れをし、早くて生後半年ほどで餌に興味を持ち出し、餌を食べ始める。新生児は他個体からの外相や母乳の欠乏で死亡することが多く、この原因は狭い飼育水槽が原因であることが多い。稀に子育てに参加するオスもいる。
日本の飼育繁殖施設では、繁殖とショーを分けており、「ショーに出ている個体は繁殖を行わないというように、触れ合いと繁殖は分けた方が良い」という意見がみられた。アメリカでは繁殖と触れ合いを分けておらず、子育てを行っているメスもイルカと泳ぐプログラムに参加しており、「イルカと飼育員の信頼関係があれば、触れ合いと繁殖は分ける必要がない」という意見が得られた。
ナーシングプールとは、複数のイルカを同じ水槽で飼育し、社会性を身につけさせることを目的とした水槽のことである。これは全ての飼育繁殖施設でみられ、「新生児、母獣、他のメスを同じ水槽で飼育することで、新生児は社会性を身につけ、母獣と他のメスは互助できる」という意見や、「出産前から未経産のイルカを同じ水槽で飼育することで、イルカが出産について学ぶことができる」という意見がみられた。
3-7.イルカと泳ぐプログラムに関する意見
イルカと泳ぐプログラムに関する項目の現状と現状に対する意見を見ていく(表11)。日本ではショーを中心とした触れ合いが行われており、イルカと泳ぐ触れ合いが行われているのは分割型のみだった。日本の飼育繁殖施設からは「触れ合いの中心であるショーとその訓練をすることが良い刺激を与える」という意見がみられ、アメリカではショーの優先度は低いが、コミュニケーションを重視しており、A1から「水に入り、イルカとのコミュニケーションを通し、イルカとの信頼関係を作ることが環境エンリッチメントの面で良く、かつ医療行為を容易にするため、繁殖の成功率をあげる」という意見がみられた。実際にA1では子育て中のメスと子供がイルカと泳ぐプログラムに参加しており、出産時も水槽内に人が入った状態で出産したケースもあるという意見も得られた。A1がここまでイルカとコミュニケーションを行うことができる要因として、温暖な気候が要因だと考えられる。1年を通して温暖な水が、水中に飼育員が入ることの敷居を下げていると考えられる。一方、日本の飼育繁殖施設の水温は、夏は暖かいが冬は冷たく、飼育員が日常的に水に入りイルカとコミュニケーションをとることは稀であるため、ショーとその訓練が触れ合いの中心になったのだと考えられる。
以上、バンドウイルカの飼育繁殖施設の現状と現状に対する意見をまとめ、日本とアメリカ、集合型と分割型の違いを分析した。イルカとの触れ合い、運営形態、施設の規模で違いが見られ、これらが繁殖の成功率に影響を及ぼしていることが考えられる。
4.理想形の考察
この節では、前章で明らかになった意見を反映した改良案を示し、理想形の考察へ接続する。
4-1.
J1の現状の飼育繁殖施設は、屋根がなく、適水温での飼育が難しいこと、ランディングスペースが狭く、医療行為が難しいこと、円形水槽であるためMHDが足りないということが意見としてあげられた(図4-1)。
これらの意見を反映した改良案を示す(図4-2)。J1はの改良案は、円形水槽を楕円形にし、屋根を付けることで適水温に保ち、水槽の外周にランディングスペースを設け、医療行為を容易にし、さらにオーバーハングさせることで、イルカがスタンディングした時に尾ビレや胸ビレが壁に衝突しないようにしている。
4-2.
J2の現状の飼育繁殖施設は、ランディングスペースがなく、医療行為が難しいこと、水密ゲートがなく、水位が水槽ごとに変えられないこと、医療用プールが一つのみでオスとメスが分離できないことが意見としてあげられた(図4-3)。
これらの意見を反映した改良案を示す(図4-4)。医療用プールを2つ作り、各水槽を繋ぐ水路に水密ゲートを設け、水位を水槽毎に変えられるようにしつつ、繁殖水槽にランディングスペースを作っている。
4-3.
J3の現状の飼育繁殖施設は、円形水槽であること、擬岩があること、ランディングスペースが狭く、医療行為が難しいこと、水密ゲートがなく、シャチの水槽と水が分離できないことが意見としてあげられた(図4-5)。
これらの意見を反映した改良案を示す(図4-6)
4-4.
J4の現状の飼育繁殖施設は、屋根がなく、適水温を保つことができない場合があること、ランディングスペースが狭く、医療行為が難しいこと、水密ゲートがなく、水位が水槽ごとに変えられないこと、また、バンドウイルカとオキゴンドウイルカを同時に飼育する水槽がショープールのみであることが挙げられた(図4-7)。
これらの意見を反映した改良案を示す(図4-8)。ランディングスペースはスロープにすることで、水位を変えずに様々なイルカに対応して医療行為が可能になり、屋根を付けることで適水温に保っている。また、バンドウイルカと同じ水槽で飼育している体長約6mのオキゴンドウイルカがスタンディングした時に尾ビレが水槽の底に衝突しないように水深6mの水槽を設けている
4-5.
A1の現状の飼育繁殖施設は、シャローウォーターを備えている繁殖水槽の深さがある程度ある部分のMHDの長さが足りないことが意見としてあげられた(図4-9)。
これらの意見を反映した改良案を示す(図4-10)。浮いている床の位置を変え、繁殖水槽の大きさを大きくしている。
4-6.
J5の現状の飼育繁殖施設は、生簀が水路で繋がっていないこと、ランディングスペースが狭く、医療行為が難しいこと、水密ゲートを持つ医療用プールがないことが意見としてあげられた(図4-11)。
これらの意見を反映した改良案を示す(図4-12)。生簀を水路でつなぎ、ランディングスペースを広げ、水密ゲートで水を分離してある医療用プールを設けた。
1-2.イルカの飼育環境に関する法律・規則等
日本国内の水族館のイルカは動物の愛護及び管理に関する法律、展示動物の飼養及び保管に関する基準によって飼育動物として保護されているが、各飼育施設が自主的に維持管理を行うという位置付けであるため、その管理状況の報告は必要なく、具体的な飼育環境の基準は定められていない。1995年に発行された書籍『新 飼育ハンドブック水族館編 繁殖 餌料 病気』において、「現在のところ特に定められた空間基準はなく、飼育有経験者の判断に任せられているというのが現状である。」と述べられており、飼育環境の基準は明確化されていないということがわかる。
一方、アメリカはもっとも飼育繁殖技術が進んでいる国の一つであると言われており、動物福祉規則(Animal Welfare Regulations)(以下、AWR)によりイルカをはじめとした海洋哺乳類や犬、猫等の飼育動物の取り扱いに関して定められている。AWRは2002年に米国農務省により動物福祉法(Animal Welfare Act)に基づいて制定された規則で、飼育動物の取り扱いに関して定めており、①動物、周辺温度等の用語の定義、②飼育員の資格、認可等の規則、③それぞれの飼育動物の飼育環境に関する基準、④動物福祉法に基づいた手続に関する規則のパートで構成され、飼育環境だけでなく、輸送の際の環境、飼育員の資格、記録保持等についても具体的な要求があり、国が飼育施設の査察をおこなうと定められている(表1)。
表1 Animal Welafare Regulations の概要
表2 Animal Welafare Regulations のイルカの飼育施設に該当する部分の要約
1-3.研究の手法・目的
本研究では、まずAWRのバンドウイルカの飼育施設の基準を定めた項目を抽出し、整理する(表2)。それぞれの項目を細分化し、それらの項目について、バンドウイルカ(図1)の飼育繁殖を行っている獣医及び飼育員等へのインタビュー調査からイルカの飼育繁殖施設の現状を把握した上で、その改善方針を考察することを目的とする。
1-4.既往研究
既往の研究では、成熟したイルカのホルモン分泌量の年次変化についての勝俣らの繁殖生理に関する研究や単一の水族館におけるイルカの飼育環境について述べた北村の研究があるが、複数の水族館の飼育繁殖施設の現状を横断的に調査し、比較・分析している例は無い。
内容
2.調査対象と調査概要
日本でイルカを飼育している施設は43館のみで、その中で繁殖経験がある施設は12館である。今回対象とした5事例は、イルカの飼育繁殖に関して専門的な知識がある獣医師や飼育員にインタビューが可能だった事例である。また、アメリカ(ハワイ州)に人工的に造成した砂浜・湾を仕切った場所で飼育繁殖を行なっている施設があり、そこで多くの繁殖成功例があるため、参考事例として調査を行なった。インタビュー調査の概要を示す(表3)。
インタビューではAWRのバンドウイルカの飼育施設に関する項目を細分化した項目に関して、それぞれの飼育繁殖施設の現状はどのようになっているか、現状の施設に関してどのような問題があるのかという観点から調査を行なった。なお、調査対象施設はバンドウイルカの屋内の飼育繁殖施設を保有していなかったため、インタビュー項目から除外し、そのほかの項目を調査項目とした。
表3 調査対象施設とインタビュー調査の概要
3.バンドウイルカの飼育繁殖施設の現状
3-1.飼育繁殖施設の種類
調査対象飼育繁殖施設を水槽の分割の仕方で集合型と分割型に分類した(表5)。
集合型はコンクリートで陸上に複数の水槽の集合を作り、そこに海から取水し、水槽の水として使用する型である。分割型では、人工湾を網で仕切ることで複数の水槽を作り、ポンプで水を外海から取水し、外海と接続しているところから自然排水することで水を循環させる人工湾分割タイプと、人工湾に複数の生簀を設け、その中で飼育し、潮流で自然給排水する人工湾生簀タイプが見られた。コスト面に関しては、プール集合タイプは建設コスト、ランニングコスト共に高く、人工湾分割タイプは建設コストが大きいものの、ランニングコストは低く、人工湾生簀タイプは建設コスト、ランニングコスト共に低かった。
表5 飼育繁殖施設のタイプ
3-2.現状とそれに対する意見
インタビュー調査によって得た各飼育繁殖施設の各項目の現状とそれぞれに関する意見をまとめ、飼育繁殖施設の型ごとに比較する。飼育繁殖施設の現状と現状に対する意見を下の表にまとめた。
3-3.屋外施設に関する意見
屋外施設に関する項目の現状と現状に対する意見を見ていく(表8)。J1、J2、J3、J4は自然海水を取り入れており、水温調節をして約20度の水温で飼育しているところが多かったが、J4は掛け流し方式であり、外水温のまま取り入れているため、夏は温度が上がりすぎることがあるという意見が得られた。Ai、J5は自然海水をそのまま取り入れており、A1はパイプでくみ上げていたが、J5は潮流で自然給排水をしており、加温等の制御をしていなかった。
気温はどの飼育繁殖施設も制御をしておらず、「気温が水温より10℃以上低いと、イルカの肺の換気率は約90%と高いため、肺炎になる可能性がある。」という意見が見られた。
バンドウイルカを飼育している水槽でカマイルカ、オキゴンドウイルカ飼育している場合があり、「水温の面でそれらの別種のイルカを飼育することは大きな問題ではない」という意見が得られたが、バンドウイルカをカマイルカ、シャチと同水温で飼育しているJ3から、「アイスランド産のシャチを飼育しており、シャチの適水温はバンドウイルカの適水温はより約10℃低く、シャチの適水温に合わせているため、バンドウイルカにとっては適水温より約10度低い水温で飼育している」という意見が得られた。
シェルターは多くの水族館が有しておらず、J4からは「将来的に、台風の時等に封鎖環境にできるシェルターは必要になる可能性がある」という意見が得られた。
屋根を有している飼育繁殖施設が6館中3館あり、「直射日光が当たりすぎると、水温が上がりすぎたり、目の疾患になる場合があるため、屋根で直射日光を防いだ方が良い」という意見が得られた。
取り上げの方法としては可動床、ランディング、漁網、落水があり、「イルカのストレスが少なく、医療行為が容易で、事故の可能性が低い可動床での取り上げが良いと思う」という意見がみられた。
表8
3-4.水槽に関する意見
水槽に関する項目の現状と現状に対する意見を見ていく(表8)。MHDは集合型が12.5m~18m、分割型が20mを超えており、集合型は分割型よりMHDが短い傾向にあった。「新生児が直線上に泳いでいるときに母獣が授乳を行うため、約18mあることが望ましい」という意見が見られ、集合型の多くはMHDが足りていなかった。
形状は楕円形、円形、長方形の水槽がみられ、「MHDを長く取るためにも、細長い形状が望ましく、事故を防止するために、直角の場所がない方が望ましい」という意見や、長方形の水槽で飼育繁殖をしているJ5から「水槽の四隅に網を張り、角を切っている」という意見がみられた。
表面積に関しては集合型が70~200㎡、分割型が250㎡を超えていた。繁殖水槽での飼育頭数、J1は6頭、J2は2頭、J3は4頭、J4は3頭、A1は3頭、J5は4頭であり、集合型の1頭あたりの表面積は30~40㎡、分割型の1頭あたりの表面積は75㎡を超えていた。ここから、集合型の方が余裕のある広さでの飼育が行われていることがわかる。
深さに関しては3~4mの水槽が多く、6mの水槽での飼育が行われているJ3から「深すぎるとイルカが呼吸に上がるまでの距離が長いため、深さより広さが必要である」という意見が得られた。
また、漁網でイルカの取り上げを行っているJ2から、「深すぎると漁網での取り上げができないため、可動床が必要になる」という意見が得られた。他に深さに関して、「深すぎると医療行為やメンテナンスが難しくなる」という意見がみられた。
水槽は各飼育繁殖施設に4~8個あり、集合型から「繁殖計画を考慮し、ショー、繁殖、メディカルのように、用途に合わせて分けて水槽を作る」という意見が得られ、分割型から「将来オスの頭数が増えてきた時に、オスはメスと分けて飼育する必要があり、個数が足りなくので、水槽の個数を増やして対応する」という意見が得られた。また、A1から「他の園館と連携し、一方ではメスのみ、他方ではオスのみを飼育することで、個数の問題を解決している」という意見が得られた。実際に、A1は同州に同じ管理母体の園館を作り、連携を取りやすくしていた。水槽の配置に関しては「複数の水槽とつなげ、かつ水槽同士の距離を短くすることで、イルカの移動が容易になる」という意見が見られた。
擬岩等の環境要素はJ3、A1で見られ、J3から「擬岩が障害物となり、MHDが短くなり、縦に泳ぐ行動や、擬岩に体をこすりつける自傷行為がみられると考えられる」という意見が得られた。
このように日本とアメリカ、集合型と分割型で水槽の規模、運営形態、飼育環境に対する考え方に関して大きな違いが見られた。
ランディングスペースは日本の飼育繁殖施設に多くみられ、「ランディングスペースは出産時に障害物になるため、柵を立てたり水位を変えたりすることで、安全にしたほうが良い」という意見や、「ランディングスペースは医療行為をする時に重要で、深さは約30cmで、オーバーハングさせ、水槽の周りにオーバーフロウを設けるのが望ましい」という意見がみられ、アメリカではランディングスペースはみられたものの、障害物と捉えておらず、「ランディングスペースはイルカとのコミュニケーションを取るために必要なものである」という意見がみられた。
シャローウォーターは日本にはみられず、人工的な湾で飼育繁殖を行っているA1のみがシャローウォーターを有しており、「シャローウォーターは様々な深さの場所ができるため、多様な触れ合いをするために有効である」という意見が得られた。
擬岩等の環境要素はJ3、A1で見られ、J3から「擬岩が障害物となり、MHDが短くなり、縦に泳ぐ行動や、擬岩に体をこすりつける自傷行為がみられると考えられる」という意見が得られた。
このように日本とアメリカ、集合型と分割型で水槽の規模、運営形態、飼育環境に対する考え方に関して大きな違いが見られた。
3-5. 水質に関する意見
水質に関する項目の現状と現状に対する意見を見ていく(表9)。イルカは肺呼吸であるため、塩分濃度、pHは飼育繁殖に大きな影響を及ぼさないという意見がみられた。
表9
3-6. 分離に関する意見
分離に関する項目の現状と現状に対する意見を見ていく(表10)。バンドウイルカはメスとオスを基本的に分けて飼育する。繁殖計画で、イルカの頭数を増やすとなった時に、メスとオスを同じ水槽で飼育し、妊娠が確定したのちに再びオスとメスを分けて飼育する。妊娠期間は約1年で、子育て期間は約3年である。出産時、出産後にオスとメスを混ぜて飼育していると新生児とのトラブルが起こることが多いため、妊娠確定以降、メスのみで飼育することが多い。子育ては基本的にメスのみで行い、新生児は長くて約3歳まで乳離れをし、早くて生後半年ほどで餌に興味を持ち出し、餌を食べ始める。新生児は他個体からの外相や母乳の欠乏で死亡することが多く、この原因は狭い飼育水槽が原因であることが多い。稀に子育てに参加するオスもいる。
日本の飼育繁殖施設では、繁殖とショーを分けており、「ショーに出ている個体は繁殖を行わないというように、触れ合いと繁殖は分けた方が良い」という意見がみられた。アメリカでは繁殖と触れ合いを分けておらず、子育てを行っているメスもイルカと泳ぐプログラムに参加しており、「イルカと飼育員の信頼関係があれば、触れ合いと繁殖は分ける必要がない」という意見が得られた。
ナーシングプールとは、複数のイルカを同じ水槽で飼育し、社会性を身につけさせることを目的とした水槽のことである。これは全ての飼育繁殖施設でみられ、「新生児、母獣、他のメスを同じ水槽で飼育することで、新生児は社会性を身につけ、母獣と他のメスは互助できる」という意見や、「出産前から未経産のイルカを同じ水槽で飼育することで、イルカが出産について学ぶことができる」という意見がみられた。
表10
3-7.イルカと泳ぐプログラムに関する意見
イルカと泳ぐプログラムに関する項目の現状と現状に対する意見を見ていく(表11)。日本ではショーを中心とした触れ合いが行われており、イルカと泳ぐ触れ合いが行われているのは分割型のみだった。日本の飼育繁殖施設からは「触れ合いの中心であるショーとその訓練をすることが良い刺激を与える」という意見がみられ、アメリカではショーの優先度は低いが、コミュニケーションを重視しており、A1から「水に入り、イルカとのコミュニケーションを通し、イルカとの信頼関係を作ることが環境エンリッチメントの面で良く、かつ医療行為を容易にするため、繁殖の成功率をあげる」という意見がみられた。実際にA1では子育て中のメスと子供がイルカと泳ぐプログラムに参加しており、出産時も水槽内に人が入った状態で出産したケースもあるという意見も得られた。A1がここまでイルカとコミュニケーションを行うことができる要因として、温暖な気候が要因だと考えられる。1年を通して温暖な水が、水中に飼育員が入ることの敷居を下げていると考えられる。一方、日本の飼育繁殖施設の水温は、夏は暖かいが冬は冷たく、飼育員が日常的に水に入りイルカとコミュニケーションをとることは稀であるため、ショーとその訓練が触れ合いの中心になったのだと考えられる。
表11
以上、バンドウイルカの飼育繁殖施設の現状と現状に対する意見をまとめ、日本とアメリカ、集合型と分割型の違いを分析した。イルカとの触れ合い、運営形態、施設の規模で違いが見られ、これらが繁殖の成功率に影響を及ぼしていることが考えられる。
4.理想形の考察
この節では、前章で明らかになった意見を反映した改良案を示し、理想形の考察へ接続する。
4-1.
J1の現状の飼育繁殖施設は、屋根がなく、適水温での飼育が難しいこと、ランディングスペースが狭く、医療行為が難しいこと、円形水槽であるためMHDが足りないということが意見としてあげられた(図4-1)。
これらの意見を反映した改良案を示す(図4-2)。J1はの改良案は、円形水槽を楕円形にし、屋根を付けることで適水温に保ち、水槽の外周にランディングスペースを設け、医療行為を容易にし、さらにオーバーハングさせることで、イルカがスタンディングした時に尾ビレや胸ビレが壁に衝突しないようにしている。
4-2.
J2の現状の飼育繁殖施設は、ランディングスペースがなく、医療行為が難しいこと、水密ゲートがなく、水位が水槽ごとに変えられないこと、医療用プールが一つのみでオスとメスが分離できないことが意見としてあげられた(図4-3)。
これらの意見を反映した改良案を示す(図4-4)。医療用プールを2つ作り、各水槽を繋ぐ水路に水密ゲートを設け、水位を水槽毎に変えられるようにしつつ、繁殖水槽にランディングスペースを作っている。
4-3.
J3の現状の飼育繁殖施設は、円形水槽であること、擬岩があること、ランディングスペースが狭く、医療行為が難しいこと、水密ゲートがなく、シャチの水槽と水が分離できないことが意見としてあげられた(図4-5)。
これらの意見を反映した改良案を示す(図4-6)
4-4.
J4の現状の飼育繁殖施設は、屋根がなく、適水温を保つことができない場合があること、ランディングスペースが狭く、医療行為が難しいこと、水密ゲートがなく、水位が水槽ごとに変えられないこと、また、バンドウイルカとオキゴンドウイルカを同時に飼育する水槽がショープールのみであることが挙げられた(図4-7)。
これらの意見を反映した改良案を示す(図4-8)。ランディングスペースはスロープにすることで、水位を変えずに様々なイルカに対応して医療行為が可能になり、屋根を付けることで適水温に保っている。また、バンドウイルカと同じ水槽で飼育している体長約6mのオキゴンドウイルカがスタンディングした時に尾ビレが水槽の底に衝突しないように水深6mの水槽を設けている
4-5.
A1の現状の飼育繁殖施設は、シャローウォーターを備えている繁殖水槽の深さがある程度ある部分のMHDの長さが足りないことが意見としてあげられた(図4-9)。
これらの意見を反映した改良案を示す(図4-10)。浮いている床の位置を変え、繁殖水槽の大きさを大きくしている。
4-6.
J5の現状の飼育繁殖施設は、生簀が水路で繋がっていないこと、ランディングスペースが狭く、医療行為が難しいこと、水密ゲートを持つ医療用プールがないことが意見としてあげられた(図4-11)。
これらの意見を反映した改良案を示す(図4-12)。生簀を水路でつなぎ、ランディングスペースを広げ、水密ゲートで水を分離してある医療用プールを設けた。
4-7.集合型理想型の考察
インタビューから得られた意見、前節で示した各水族館の問題点を修正した改良案を基に、それぞれの型の理想形の考察を行った。
集合型の理想形は前節で抽出した現状の飼育繁殖施設の問題点を改善する案としている(図4-13)。屋根を設け、直射日光を防ぐことで、適水温に保ち、かつ日よけとなり、目の病気を防いでいる。MHDは18m以上取り、形状は楕円形にしている。水槽は複数の水槽と繋擬、水槽間の距離を短くすることで、イルカの移動を容易にしている。ランディングスペースはスロープにすることで、水位を変えずに容易に医療行為をすることができる。また、シャローウォーターを設け、様々な深さの場所を生み、触れ合いを多様にしている。医療用プールには水密ゲートを設け、病気の感染を防ぐとともに、水位を他の水槽と変えて医療行為をする事を可能にしている。
4-8.分離型理想型の考察
分割型の理想形は3章で明らかにした分割型の飼育繁殖施設の可能性を現状の飼育繁殖施設に適用した案としている。医療用プールには屋根を設け、適水温での飼育を可能にし、直射日光を防ぐことで目の病気を防いでいる。また、水密ゲートを設け、病気の感染を防ぐとともに、他の水槽と水位を変えて医療行為をする事を可能としている。水槽は大きい水槽を網で仕切って分割しているため、イルカの飼育頭数が増えてきた時に、柔軟に対応できる。シャローウォーターを設け、触れ合いを多様にしつつ、医療行為を容易にしている。また、ランディングスペースは、オーバーハングさせることで、イルカがスタンディングした時に尾ビレや胸ビレが衝突しないようにしている。(図4-14)
分割型はイルカの飼育頭数に合わせて、水槽の個数、広さを変更することが可能であるが、コンクリート等で大水槽を作り網で仕切った分割型の場合、水が絶えず入れ替わる人工湾での分割場合と違い病気が感染する危険性が高まるため、医療用プールを大水槽とは別に作る方が望ましいと考えられる。
集合型は従来の飼育繁殖水槽と同じく、コンクリート等でイルカの飼育繁殖施設を設計する場合に適用できると考えられる。
分割型は自然または人工の湾でイルカの飼育繁殖施設を設計する場合に適用できると考えられる。
結論・考察
以上、海外文献の調査及び、水族館へのインタビュー調査を行い、イルカの飼育繁殖施設の現状を明らかにするとともに、その理想形の考察を行う中で、バンドウイルカの飼育繁殖施設を設計する際の指針を示した。
2章では、アメリカの動物福祉規則(Animal Welfare Regulations)のイルカの飼育施設について述べている部分の分析を行い、イルカの飼育繁殖施設の考慮すべき項目を明らかにするとともに、インタビューするべき項目を明らかにした。
3章では、インタビュー調査からバンドウイルカの飼育繁殖施設を水槽の分割の仕方で分類し、2章で明らかにしたイルカの飼育繁殖施設の考慮すべき項目に関して、それぞれの施設の現状と現状に対する意見を明らかにし、日本とアメリカ、集合型と分割型で違いを分析した。
多くの集合型の飼育繁殖施設では施設の規模が足りておらず、小さい施設でイルカを飼育していることが明らかになった。イルカとの触れ合い、運営形態、施設の規模に関して大きな違いが見られ、これらが繁殖率に大きく影響を及ぼしていることが考えられた。
4章では、3章で挙げられた現状に対する意見を基に、各飼育繁殖施設の修正点を明らかにし、改良案を示した。さらに集合型と分割型で理想形の考察を行う中で、イルカの飼育繁殖施設を設計する際の指針を示した。
以上をもって、本研究の結論とする。
英文要約
研究題目
Study on existing breeding facility of bottlenose dolphins and improvement method
申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名
Koichi YASUDA
Tokyo Institute of Technology, Department of Architecture and Building Engineering, professor
本文
The purpose of this study is to research about existing breeding facility of bottlenose dolphins and to consider improvement method in japan. First, we research about standards specifying environment for dolphin, especially Animal Welfare Regulations written by United States Department of Agriculture. Then, we interviewed with veterinarian that have specialized knowledge about breeding of dolphins, and obtain information about existing breeding facility and ideal scheme.
Based on that, we proposed the method of improvement related to suggestion of breeding facility and describe ideal scheme of dolphin nursery pool for aquarium.