研究報告要約
調査研究
3-103
福島 加津也
目的
ひとつの建築材料に着目し、その建築の忘れられていた歴史を辿ることが我々の研究の特徴である。2018年度の助成調査研究である「失われた西洋近代の木造建築の再発見」では、最も古い建築材料である木材に注目し、木造による近代建築の歴史を再発見した。そこで今回の調査では、最も新しい建築材料であるアルミとプラスチックに注目した。これらの建築材料の歴史は、新しいからこそ整理されておらず、その材料によって直接的に、また間接的に生まれてきた建築について今までまとめられてこなかった。
アルミとプラスチックはともに第二次世界大戦によって飛躍的に生産量が増えた材料であり、戦後新たな活用法が求められる中で建築素材として使われていく。アルミは大手のアルミメーカーやバックミンスター・フラーのような建築家によって、高層ビルのファサードや量産型の住宅に活用された。プラスチックは化学企業によって、量産型の住宅のプロトタイプとして様々な試みが行われた。大企業の多くは建築家と協働することで、デザインを技術の中に組み込んでいくことに成功する。その後、アルミやプラスチック建築の持つ未来的イメージに触発されて、グーギー建築と呼ばれるコーヒーショップやダイナーなどの商業建築が登場する。これらの建築はハリボテ建築として切り捨てられることが多いが、ロバート・ヴェンチューリのように逆にそのデザインに価値を見い出し、自身の建築に活かすような建築家も現れる。
このように、アルミ、プラスチック、グーギー建築は現代の建築デザインを考える上で重要な歴史であるが、日本のみならず世界的にも包括的にまとめられてこなかった。このため、本研究ではアメリカの第二次世界大戦から1970年代までの建築を上記のような視座で見直すことで、現代建築に役立つデザインの手がかりを得ることを目的とした。
内容
アルミ建築、プラスチック建築、グーギー建築、そしてそれらから派生する建築についての資料を集めることから本研究は始まった。英語や日本語の論文、書籍、ウェブサイト、当時のアメリカ建築を紹介する日本の建築雑誌を調査し、その中から本研究に適する建築を抽出した。そこからその建築が現存することを確認して、現地調査で訪れる建築のリストを作成した。リストにあがった建築の多くは個人所有のため、所有者を特定・連絡し、調査の許可をとることも調査の上で重要だった。
本研究の核であるアメリカの現地調査は、新型感染症の影響のため延期となったため、その期間、日本での調査を行い、その後アメリカで調査した。現地調査では、実際の建築を訪れて、実測や写真撮影、文献採集や使用者への聞き取りなどを行って、調査資料を採集した。また、調査した時代に大きく影響を与えたヒッピー文化などへの理解を深めるため、ホール・アース・カタログの建築分野の編集を行い、その後は「シェルター」の出版で知られるロイド・カーン氏へのインタビューも行った。
帰国後は、現地調査で得られた資料の整理と写真の編集、並びに見学した建築のCAD化を行い、デザインに役立つ資料として研究内容をまとめた。最終的に、本研究で得た知見を幅広く共有することを目的として、研究で得られた資料を元に書籍の出版を進めている。
ダイマキシオン・ハウス(1948)
ダウニーのマクドナルド(1953)
母の家(1964)
方法
現地調査は、2022年6月4日から19日までの計16日間で行われた。見学リストに基づき、①サンフランシスコ、②ロサンゼルス、③デトロイト、④ピッツバーグ、⑤フィラデルフィア、⑥ニューヨークの6都市を拠点として進められた。それぞれの建築の資料は、紙媒体でもウェブ媒体でも存在しないことが多いため、下記の4点を心掛けて調査を行った。
1.それぞれの建築の文章資料と図面資料の有無を確認した。
2.図面資料が収集できなかった場合は、平面図と断面図を作成できるように実測調査を行った。
3.建築の空間やディテールを記録するために、できるだけ対象に正対して撮影を行った。一方でその空間の雰囲気に大きく寄与している家具や置物なども重視して撮影を行った。
4.所有者や使用者にできる限り聞き取り調査を行い、その建築のオーラルヒストリーや建物への想いや思い出を音声データとして採集した。
結論・考察
今回の現地調査では、日本で4件、アメリカでは19件の現地調査を行い、1人のインタビューを行った。アメリカの現地調査は下記のように分けることができる:
①企業主導のアルミ建築(アルコア社、レイノルズメタル社など):7件
②個人主導のアルミ建築(バックミンスター・フラーなど):3件
③グーギー建築:4件
④オルトモダン建築:5件
(日本で現地調査した建築は、アルミ建築1件、プラスチック建築2件、グーギー建築1件である)
プラスチック建築は、その材料の性質から現存している建築がほとんど残っていなかったため、アメリカでは調査・訪問することはかなわなかった。一方アルミ建築は、構造体へのアルミの活用からカーテンウォール、ドアハンドルなどの建築金物など、その活用方法は多岐にわたった。グーギー建築は、未来的なイメージを目指し、今でもその新しさは失われていなかった。一方で、今ではすっかり街に溶け込んでおり、今回調査した4件以外の建築も多く見られた。オルトモダンと名付けた建築5件は、モダニズムに対するオルターナティブ(代替物)としての建築であり、モダニズム建築ともポストモダニズム建築とも異なる価値を示していた。そのため、現代の建築と連続しておらず、その価値を正当に評価し、現代に引き継ぐことがこれからの課題となる。現在ポストモダニズム建築というと、過去からの引用を重視した装飾過多な建築を想起してしまうが、今回取り上げた建築の流れはそれとは全く異なる。ポストモダン(近代の後の時代)における建築を考える上でこれらの建築は重要であり、建築デザインのみならず建築史的にも本研究は大きな意味をもつ。
また、調査した全ての建築は、一般的な建築の歴史で取り上げられることはないが、使用者に大切に使われ、今でも当時思い描かれた未来像の輝きは失われていなかった。未来像を描くことが困難な現代において、再び未来に想いをはせること、過去の未来像から学ぶことの重要性に気付かされた研究だった。
英文要約
研究題目
Rediscovering the Dreams of the New Materials of the Mid-Century Modern
申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名
Katsuya Fukushima
Department of Architecture, Faculty of Engineering, Tokyo City University Professor
本文
This research focuses on America’s aluminum and plastic architecture after world war 2. With peaceful usage of military technologies and the birth of mass-consumption society in the backdrop, these architectures were sought by not only aluminum and plastic corporations but also by individuals such as Buckminster Fuller. Later, the image of the futureness of the new materials becomes more relevant, leading the way for the Googie architectures like the dinners in LA. They also influenced Japan, where the Light Metal Association created magazines and aluminum temples, and corporations like Sekisui House developed prefabricated houses. In America, aluminum and Googie architecture formed the future vision of architecture and paved the way for post-modern architecture.
We researched nineteen architecture in America and four architecture in Japan. Most of them are not featured in mainstream architectural history, but their current owners still cherish them, and the future vision of the past has not lost its luster. Our research aims to reveal the secrets of these architectures and find ideas relevant to today’s architecture.