研究報告要約
調査研究
3-120
家成 俊勝
目的
都市は生産地から消費地へと変容し、さらに高度な情報化と技術革新によって交通と物流は加速し、物理的な距離や境界を超えて、地球規模で生産と消費が繰り広げられるようになった。プラネタリーアーバニゼーションという言葉がある通り、都市と後背地のネットワークが綿密に整備されており、私たちの生活の基盤を成している。これらは当たり前に存在しているが故に普段の生活で意識することはほとんどなく、透明な存在になっているとも言える。私たちが日常的に使っている資源や食料、物がどのような経路で世界中に流れているかをあらためて可視化し、その結節点を見出すことが目的である。
そのために、本研究では、人や物が行き交う都市空間における駅に着目した。人や物の移動に不可欠な「駅」は、本来人間の多様な活動を包摂し、様々な都市の使用に応える可能性を有した場であるにもかかわらず、現在も各地で進行中の我が国の駅の再開発は、高度利用を図ると同時にほぼ全てが商業施設やオフィスとして活用されている。物の消費に重きをおいた経済活動を中核に人間の行動を限定的にすることで、多様な振る舞いを阻害しているともいえる。
本研究では、駅の公共性に着目し、実在する駅の一部を実際に使用しながら、駅における人の振る舞いとその場所が持つ可能性の拡張の試行と検証と考察を行った。
内容
内容①
研究計画step1)わが国における鉄道駅舎の機能と活用法に関する先行研究を踏まえた考察
本研究の序盤(step1)では、経済学や社会学の分野における駅空間への考察を踏まえながら、現代の駅構内や駅前開発に関する先行研究を参照し、独自の問題提起に取り組んだ。
●公共交通機関のあり方に関する先行研究
日本国内においては、鉄道、バスなどの公共交通機関は民間企業による独立採算のビジネスとして運営されているが、それは欧州先進国では珍しいことである。
日本では、モータリゼーションにより個々人の移動の範囲は急速に拡大し、それに合わせて都市開発が進められた結果、特に地方においては鉄道事業がビジネスとして成立しなくなり、各地で赤字路線の廃線が進められている。
さらに、2045年には日本の総人口が1億640万人となり、2015年と比較すると2000万人以上も減少するという見通しがある中で、欧州の鉄道事業を好例として、交通経済学、土木、都市計画、交通政策等、様々な分野で研究が行われている。
欧州では、鉄道をインフラとして位置づけ、環境政策(自動車から転換し、環境負荷低減)、商業政策(歩いて楽しむ場をつくり、にぎわい創出)、社会政策(運転ができない人の移動手段確保)など、多様な政策を公共交通機関によって担うという考え方をベースに、政策転換が行われ、事業の採算性よりも住民へのサービスが重視された政策が実現している。(土井 勉「やさしい経済学」2018年)
国内における公共交通の先行研究について、宇都宮浄人氏はその著書『地域公共交通の統合的政策:日欧比較からみえる新時代』の中で、注目されるキーワードとして「コンパクトシティ」「交通まちづくり」「モビリティ・マネジメント」を挙げている。
また、土井勉氏も『やさしい経済論』の中で、今後の鉄道事業のあり方の鍵となるのが「コンパクト+ネットワーク」であると解いている。
それらのキーワードを紐解くと、「駅を中核とした集約型の都市構造」「公共交通を軸にした市民と行政の協働によるまちづくり」「多様な移動手段を用いたコミュニケーションを中心とした交通政策」ということができる。
●駅、駅舎に関する先行研究
国内において、鉄道駅舎と都市の関係性を総合的に捉えた研究事例は非常に限られている。しかし前述した通り、鉄道駅舎とまちの関係性は、今後の鉄道事業のあり方を左右し、都市計画の要となるものである。ここでは、数少ない駅舎機能に関する先行研究をもとに考察を行った。
交通拠点としての鉄道駅舎とまちの有機的関係の構築に必要な基本機能を明らかにした矢田智美氏の研究では、鉄道駅舎に設置される機能要素を類型化し、それらとまちの関係性を客観的に分析している。その結果、「鉄道駅舎内で利用者を滞留させ、交通施設とまちの媒介となる鉄道駅舎を目指すためには、<改札─改札前の待合空間─設置機能─出入口─まち>が主要導線として一体的に連続する構成が求められる。いわば、交通施設とまちを混ぜるコンコース(concourse:経路が混ざり合う)としての位置づけが求められている」とした。(矢田智美「まちづくりの視点から見た鉄道駅舎の機能設定に関する基礎的研究」2012年)
鉄道駅における公共概念とその変容を研究した臼井幸彦氏は、公共空間の特性を「公開性」「共通性」「距離感」の3つと定義し、それぞれの特性を構成する要素について「公開性─駅の機能」「共有性─駅の事業方式」「距離感─駅の様式性」と位置づけ、公共施設としての駅舎のあり方に言及している。また、全国の県庁所在地の駅舎153駅の変遷にも着目し、人間の寿命を仮に70年とした場合、それを超えている駅は東京駅等の3駅のみであることを指摘するとともに、「近年は、駅が都市の基本単位として都市計画上明確に位置づけられ、且つ、鉄道高架のような本格的な土木建造物と一体的に建設されていることから、今後は駅の形態を長期的に維持し、公共建築としての恒久性を確保することも可能と推測される。」としている。その一方で、「駅の公共空間特性「公開性」が時代的に小さくなる可能性がある。これは、著しい商業機能の集積により、経済合理性が優先される結果、私的領域が公共領域を浸食することを示唆している。」として、商業機能が巨大化する現状を危惧している。
この駅の公共空間特性としての「公開性」に関して、「文化機能」は、「現行駅では例外的な機能であり、事業性が極めて低いことから、通常は公的な事業として行われることが多い。従って、文化機能の『公開性』は本来的に高いものがある。」と評価し、駅の機能に伴う「公開性」の大きさを、駅・文化>ホテル>商業>オフィス、と位置づけている。(臼井幸彦「鉄道駅における公共概念とその変容に関する基礎的研究」2000年)
以上のことから、公共交通機関としての鉄道事業ならびに公共施設としての駅舎の重要性、さらに、商業機能の拡大への警鐘と文化機能の必要性は、先行研究においても指摘されているところではあるが、実際のところ行政や企業における政策転換や機能転換は容易なことではない。
本調査研究では、先行研究を踏まえながら、鉄道史、駅舎機能、都市空間論、物流の観点から鉄道を取り巻く社会状況を把握し、駅の新たな可能性を探るための公開研究会を行うとともに、並行して、前例の少ない駅の文化機能について、実践を用いた研究を行うこととした。
※参照文献
・宇都宮浄人『地域公共交通の統合的政策:日欧比較からみえる新時代』東洋経済新報社、2020年
・土井勉「やさしい経済学・人口減少時代の公共交通」日本経済新聞(8回連載記事)、2018年
・矢田智美「まちづくりの視点からみた鉄道駅舎の機能設定に関する基礎的研究」日本建築学会研究報告51巻 p.85-88、2012年
・臼井幸彦「鉄道駅における公共概念とその変容に関する基礎的研究」日本建築学会計画系論文集 65巻 538号 p.173-179、2000年
内容②
研究計画step2)人間の都市活動に関する資料収集と、国内外における駅空間の創造的利用に関する調査
本研究の中盤(step2)では、step1での問題提起を踏まえて駅空間の創造的利活用に関する調査を行うとともに、物流、移動、エネルギーなどの側面から人間の都市活動の様相を視覚的に捉えた資料を収集。研究終盤の思考実験における必要要件やテーマの洗い出しを行った。
●国内外における駅空間の創造的利用に関する調査
かつて鉄道は、人や物の輸送を担うだけでなく、各地の情報や文化を運び、駅はその交易の場であった。各地からもたらされる情報や異なる文化は、人々の創造力をかき立て、新たな技術や産業、芸術を生み出していった。
駅が創造活動の源となった事例は、鉄道発祥のヨーロッパを中心に認められる。しかしながら、国内では物語や表現の舞台としてや単発的事業は実施されるものの、持続的・創造的に駅空間を利用する実例は極めて少ない。それは先述の通り、駅舎の開発や都市計画そのものが実利的・商業的価値を重視し、そのもとで設計・利用されるためだと考えられる。ルフェーブルは、このような空間に生きる都市住民の現状を「社交性なき近接性」「現実に出会うことのない出会いという悲劇的な親密性」と表現し、現代人の消費社会への従属を批判している。
では、現代人の消費行動や経済活動は、都市や地方にどのような影響を及ぼしてきたのだろうか。Step2では、より大きな視点で都市や経済の様相を捉えるため、物流や移動、エネルギーなどの状況を地球規模の視点で視覚化した資料を収集した。
●都市活動、経済活動に関する資料収集
収集資料の一例:鉄道網と駅/日本の鉄道廃線図/高速道路網とIC/地球上の船の移動と港湾/物流倉庫/パイプライン(現代社会の化石燃料 依存度,推移)/地球上の飛行機の移動/ゴミ処理場 最終処分地/インドの鉄道写真/公共交通機関速度モデル、他(内容は資料集を参照)
移動や物流の側面から人間の都市活動を捉えたとき、一体何が見えてくるだろうか。ここで収集した資料から考察できることは、都市は生産地から消費地へと変容し、物理的な距離や境界を超えて、地球規模で生産と消費が繰り広げられるようになっていること、さらに、プラネタリーアーバニゼーションという言葉の通り、都市と後背地のネットワークが綿密に整備されており、私たちの生活の基盤を成していることである。
これらは私たちの生活の背景に当たり前に存在しており、尚且つ、高度化した情報技術によりこれほどまでに明確に可視化されているにも関わらず、普段の生活では意識することはほとんどなく、透明な存在になっているとも言える。
「駅」の創造性について考察し、都市と経済と文化に関する実践的研究を目指す本研究では、私たちが日常的に使っている資源や食料、物がどのような経路で世界中に流れているかをあらためて可視化し、その結節点を独自の手法で見出すことを研究終盤の思考実験のテーマとした。
※参照文献
・アンリ・ルフェーブル『都市への権利』、森本和夫訳、筑摩書房、1969年
・北川眞也「解題 アントニオ・ネグリの〈大都市〉論」、空間・社会・地理思想21号、2018年
・アンディ・メリフィールド(小谷真千代、原口剛訳)「都市への権利とその彼方」、空間・社会・地理思想21号、2018年
・特集「プラネタリー・アーバニゼーション–21世紀の都市学のために[前編]」10+1 web site、https://www.10plus1.jp/monthly/2018/11/、2018年
・北川眞也「広範囲の都市化」が生みだす不均等な地理――後背地、 ロジスティクス、地域闘争」、10+1 web site、http://10plus1.jp/monthly/2018/11/issue-03.php、2018年
・志水英樹他「駅舎および周辺街並の知覚構造に関する研究」、日本建築学会計画系論文報告書第433号、1992年
・西尾京介「鉄道駅の利用者に対するわかりやすさ」、都市のバリューを考える会19号、日建設計総合研究所、2010年
・藤村龍至「イノベーションを起こす都市設計、空間設計」、TOKYO INNOVATION RESEARCH ウェブサイト(インタビュー)、https://www.mec.co.jp/tokiwabashi/tir/fujimura/article1/、2017年
・国立市都市整備部国立駅周辺整備課「旧国立駅舎活用方針報告書」、2017年
内容③
研究計画step3)実在駅を活用した思考実験とプロセスの分有
●駅を活用した思考実験
本研究主題の目的に合致する場として、実在する駅のコンコースの空間において思考実験を展開した。実践場には、近代日本の物流および経済活動拠点としての歴史をもち、大阪の経済と文化の中心地である中之島において、都市開発により2008年に開通した地下鉄駅構内に位置する「アートエリアB1」を活用。本拠は、駅構内の商業的な利用目的とは異なり、都市生活者が多様な学術知や芸術文化を実体験・享受する都心駅のコミュニティスペースとして様々な実験的活動を展開し、国内外でも極めて希少な“創造的な駅”である。
よって本拠が成立する要件の検証とともに、駅の創造的活用法の思考実験を実施することによって、研究目的と意義に沿った実践とマルチステークホルダーを対象とした実証実験が可能となる。思考実験の共同者には本研究代表者である家成による建築ユニットdot architectsと、時間・情報・身体等のあり方を転換させ、既存の価値観を問い直す表現活動により国内外で活躍するアーティストグループcontact Gonzoを迎え、都市と経済について考えるための具体的な行為と思考を通じて主題に関する検証を重ねた。
●映画的手法を用いた展示プログラムと公開研究会
実際の思考実験では、駅の公共性・公開性を担保しながら、本研究テーマを如何に分野を超えた多角的な視点から掘り下げ、アウトプットできるかが課題であった。
そのために用いたのがテーマとして物流や資本主義経済のあり方を創造的に再考していく映画的手法と、対話型の公開研究会である。
建築、経済、都市、芸術その他社会的主題から広くテーマを設定し、浮かび上がった具体的トピックスに関連する多分野の研究者またはアーティスト等を招聘して研究会を公開形式で開催。一般的な発表者のプレゼンテーション形式のみならず、クロストークやワークショップなどの可能性も含めて最適な方法で開催し、テーマを多角的に捉え考察を深める契機となった。(内容は研究成果を参照)
方法
研究の方法①
「鉄道芸術祭vol.10『GDP THE MOVIE 〜ギャラクティック運輸の初仕事〜』」の開催
大阪・中之島に2008年に開通した地下鉄駅構内に位置する「アートエリアB1」では、2010年より毎年、鉄道の創造性に着目した企画展「鉄道芸術祭」が行われてきた。
その第10回目として、展覧会と映画制作の構造を活用した独自の視点から経済のあり方を探究したプロジェクト「鉄道芸術祭vol.10『GDP THE MOVIE 〜ギャラクティック運輸の初仕事〜』」が本研究の成果の1つである。なお本プロジェクトは2ヵ年計画の2年目であり、1年目で行われたイベントやリサーチが映画作品のベースとなっている。
本研究の成果は、以下の4つ挙げることができる。①トークシリーズ(公開研究会、全8回)②展示プログラム、③イベントプログラム(全3回)、④研究内容の書籍化(コンセプトブック発行)である。
①トークシリーズ(公開研究会)【画像1-3】
本研究のテーマ(鉄道史、駅と経済の関係性、輸送、映画、ルフェーブル哲学)の専門家による公開研究会としてのトークシリーズでは、専門的知見はもとより、来場者からの質問やコメントも交えながら各主題についての考察を深めた。(なお、すべてのトークプログラムは実来場だけでなくYouTubeライブ配信(視聴無料)を併用開催。)
(1)「日本鉄道史のなかの渋沢栄一」(7月27日)
ゲスト:老川慶喜(立教大学経済学部名誉教授)
概 要:鉄道開業150年を迎える今、「近代日本経済の父」である渋沢栄一が寄与した鉄道事業の功績をたどり、鉄道史を考察した。
(2)「収益装置としての駅の進化と今後の方向性」(12月25日)
ゲスト:加藤肇(産業能率大学教授)
概 要:「駅ビル」「駅ナカ」が身近な、昨今の商業施設としての駅のあり方を検証するとともに、これからの駅利用の可能性について考察した。
(3)「Gonzo dot party の”事実”と”妄想”を語る」(2月19日)
ゲスト:contact Gonzo、dot architects
概 要:Gonzo dot partyにおける「事実=昨年に繰り広げた数々の実験」と「妄想=タイトルに込めた意味やこれから」を語り合った。
(4)「リアルとフィクションから語る駅・鉄道の新たな魅力」
ゲスト:杉山淳一(鉄道ライター)
概 要:鉄道シミュレーションゲームにおける「駅の役割」など、現実の駅や鉄道のコミュニティ機能について、フィクションとリアルを交えた鉄道の新たな可能性を検証した。
(5)「GDP THE MOVIE 〜ギャラクティック運輸の初仕事〜を語る」
ゲスト:contact Gonzo、dot architects
概 要:映画制作を通じて鉄道・経済のテーマに取り組むことになったメインアーティストが、映画制作のアイデアなどを語り合った。
(6)「グローバル・ロジスティクスを考える ―鉄道の可能性」
ゲスト:柴崎隆一(東京大学大学院工学系研究科准教授)
概 要:各運送手段を組み合わせることで物流の効率化を図るインターモーダルの仕組みを中心に、輸送のあり方や可能性の検証を踏まえて未来を語った。
(7)「映画と鉄道の軌跡をたどるー記録と創作の可能性」
ゲスト:東志保(大阪大学文学研究科准教授)
概 要:映画と鉄道の密接な関係とその成り立ち、昨今誰しも身近なものとなった映像手法について紐解き、映画表現の可能性を語り合った。
(8)「アーティストは都市を『作品』にできるか─ルフェーヴルの視点から─」
ゲスト:山本千寛(東京大学教養教育高度化機構特任研究員)
概 要:ルフェーヴルは消費社会のルーティン化した日常に注意を促しつつ、住まうひとが自分たちの訴えや欲望の実現をめざす「作品」としての都市のあり方を模索した。トークでは経済と創造活動、そして人間の主体性の関係について掘りさげた。
研究の方法②
②展示プログラム【画像4-11】
(前期:2021年11月20日〜12月24日/後期:12月25日〜2022年2月27日)
1年目のリサーチに加え、京阪電鉄寝屋川車庫へのフィールドリサーチや、京阪電鉄より招聘した鉄道に関するソフト/ハード両側面の各専門家へのインタビューを経て、プロジェクト内で制作された映画作品「GDP THE MOVIE 〜ギャラクティック運輸の初仕事〜」は、その制作から上映までの全てをアートエリアB1の会場内で行った。映画制作や演技経験ゼロのメインアーティストたちによるDIYのSF映画であり、内容に関しては、コロナ禍において困難になった「パーティー」という概念を宇宙空間に輸送するという思考実験が基になっている。
展示空間は、前期(映画の完成前)と後期(映画の完成後)で展示変えを行った。前期は、映画の制作に向けて、アートエリアB1内に撮影セットを設営し、メンバーの制作会議から撮影・編集にいたるまでの全ての過程を来場者に公開。撮影セットや台本などの展示物だけでなく、アーティストの制作過程そのものを展示として提示した。後期は、舞台セットの一部を残しつつ映画館に改装し、入場ゲート、スクリーン、観客席を設置して映画の上映を行なった。これにより本来は駅コンコースという空間でありながら、来場者は落ち着いて映画と展示を鑑賞することが可能になった。また本企画で制作された映画は、TOTOギャラリー・間で開催された「ドットアーキテクツ展 POLITICS OF LIVING ⽣きるための⼒学」(2023年5月18日~8月6日)でも上映された。
③イベントプログラム【画像12-14】
イベントプログラムは、会期中全3回行われた。公開撮影や上映会など、COVID-19の世界的蔓延によって困難となったゲストや地域の方々との交流を通したプログラムを展開するとともに、クロージング・イベントを行うことでプロジェクト全体が「パーティー」の様相をより強く呈すものとなり、駅における消費行動や人が集まる行為そのものの意義を深く検証することに繋がった。
(1)オープニング・プログラム「Gonzo dot party」(11月20日)
ゲスト:contact Gonzo、dot architects
概 要:会場に設えられた舞台セットとなる宇宙船「エグゾースション号」のギャラリーツアーや、ワンシーンの公開制作を行なった。
(2)上映会「『GDP THE MOVIE 〜ギャラクティック運輸の初仕事〜』の初披露」(12月25日)
ゲスト:濱口竜介(映画監督)
概 要:映画を初披露した上映会では、オルタナティブな撮影手法を用いてエンターテイメントの世界でも活躍する映画監督・濱口竜介氏をゲストに迎え、メインアーティストたちと本作の主題について語り合った。
(3)クロージング・プログラム「Gonzo dot party」(2022年2月19日)
ゲスト:池田家、今治から来たDJ、小川しゅん一、大野知英、
たこ焼きシーケンサー(八木良太、真下武久、近藤忠)、
塚原家、中間アヤカ、水内義人、山田春江、やんツー
出 店:ミミヤマミシン(オリジナルグッズ)、PUGMENT*(服)、IN/SECTS(雑誌)、
MASAGON(イラスト)、NAZE*(イラスト)、COPY TRAVELLERS(グッズ)、
鈴木裕之(似顔絵)、おこぶ 北淸(オリジナル食品)、おかんクラブ(グッズ)、
ホンマタカシ*(*…出品のみ)
ゲスト:contact Gonzoとdot architectsがプロデュースし、展示会場で最後のパーティーを開催した。会場ではパフォーマンスやダンス、ショーに加えて、雑貨や書籍、デザインなどを扱うショップが展開されて様々なモノやコトの売買が行われ、会場は大きな賑わいを見せた。
④研究内容の書籍化(コンセプトブック発行)【画像15-17】
2ヵ年の記録と考察のまとめとして、今年度の映画作品および展示のあり方に則り「特別パンフレット」の形でコンセプトブックを発行した。シナリオ全編や登場人物、映画音楽のほか、これまでのリサーチにおいて出現し、映画内にも登場するキーワードの解説など、本展映画作品『GDP THE MOVIE 〜ギャラクティック運輸の初仕事〜』の世界観を解説するとともに、本プロジェクトで行われた展示プログラムやリサーチの成果を一冊に集約した。加えて本書籍には、本研究代表者・家成による「ギャラクティック運輸についての一つの考察」も掲載されており、そのなかで「経済」、「物流」、「パーティー」というキーワードに触れながら、「奪われた想像力を取り戻すためのフィジカルな出会いこそがパーティーなのである。そこでは人と人の出会いはもちろん、生活のための技術や知恵、素材や食材に直に触れ、生み出される現場を経験することができる。そしてパーティーは様々な形に分断された世界を繋ぎ合わせていくと同時に楽しみを与えてくれる行為である」として、駅コンコースという場における本研究の一連の成果も含めた本研究の意義について述べている。
結論・考察
・本研究を経て、改めて「駅」が経済、物流、文化などあらゆる面において、重要な結節点であること認識できたが、その利活用においては、未だ経済的利益が優位され、商業的利用に留まっている状況にある。
・しかしモータリゼーションの変化に伴う昨今の交通状況はもとより、コロナ禍による移動制限や在宅勤務などによる駅や鉄道の商業利用の今後の課題も浮き彫りとなった。巨額を投資し、商業機能を巨大化させ続ける現在のあり方が行き詰まりを見せていることも事実であり、消費経済に依存しない新たな施策が必要である。
・そのような状況の中でも2009年から大阪・中之島において駅の創造的利活用を実践してきた稀有な場であるアートエリアB1において展示と公開研究会としてのレクチャーを繰り広げ、一定の成果をあげることができた。しかしながら国内外の実践例としても極めて稀であり、この事例を如何に他都市に展開していけるかが今後の課題となる。
・コロナ禍による経済的打撃、加速し続ける少子高齢化により、地方のみならず都市の中にも空きスペースが出てきているなかで、このような創造的活動の重要性はますます高まると考えられ、既存の価値を読み直すイノベーションとしても重要である。この創造的活動が、経済的な指標でないかたちで如何に継続できるかが問われている。
英文要約
研究題目
Exploring Creative Aspects of Railway Stations for Practical Insights into Cities, Economics, and Culture
申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名
IENARI Toshikatsu
Department of Spatial Design
Professor
本文
The Industrial Revolution ushered in a capitalist economy, which over the years has grown and developed into a system underpinning every aspect of contemporary society. Despite many flaws and disparities, this system continues expanding without end. However, the massive blow to the global economy dealt by the COVID-19 pandemic made it clear to all that a fundamental reassessment of our basic economic framework is needed.
Guided by the arguments of the leading 20th-century sociologist Henri Lefebvre, this research project aims to reimagine urban railway stations, essential for logistics, mobility, and economic activity, as creative hubs and commons where people interact and encounter diverse perspectives and values. It delves into often-overlooked aspects of our streamlined economic system, examining and exploring capital-labor dynamics, Japan’s distinctive resources and industries, relationships between urban and non-urban areas, community self-governance, and various facets of production and consumption.